純米吟醸生酒「かもすぞ」

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「先生、持ち込みは困ります」
「持ち込みじゃないよぅ。というか……これなんだけど」
「え? なになになに。あ当たったんですかっ」
「うん。抽選の申し込みからひと月も過ぎていたから、てっきりハズれたものと思っていたら、お天気の話でもするように当たり前な感じで、サラッと『当選しました』ってメールが……」
「ふええ。いいなあ。ちょっと触らして。――そうかあ。去年は限定先着受付だったけど、今年は抽選でしたもんねー。私も応募すればよかったかも」
「すぞ?」
「はい?」
「……もやしもんファンとしては、一度は口にしてみたい酒だからねえ。嬉しいよ」
「石川[いしかわ]先生が、高垣酒造[たかがきしゅぞう]さんの蔵の生酒をすべて利き酒して、ザ・ベストを選んだんでしょ?」
「そう、それがこれ。自作のシンボル的フレーズを冠して瓶詰めしている。思い入れ満杯だ。このラベルがいいよねえ」
「作者自らのデザインですもんね」
「素朴かつ軽やかなタッチで、一見日本酒とは思えないところがまたグッド。俺はこの瓶を手に入れるために応募した、と言っても過言ではない」
「中身じゃないんですかい」
「はは、それは冗談だけど。ただ、俺ってほら、普段日本酒呑まないでしょ」
「知りませんよ、そんなこと」
「ポン酒はド素人なんだ。興味はもちろんあるよ。もやしもんの中で描かれてる『龍神丸[りゅうじんまる]』の劇的な味覚体験を自分もしてみたい、とは今も切に願っている。でも、基本ビールな浮夜[うきや]としては、未知の領域に入ってゆく気分でね。美味いか否かの判断なんて自信がない。これは《味わう》以前に日本酒を知らないといかんか、と思ったんだけど……」
「うーん。変に知識を抱え込んでより、素直にありのまま、味わいを愉しむのがいいかも」
「すぞ?」
「はい?」
「……わざとしてるよね?」
「え?」
「かも止め」
「なんですか?」
「……えーと、今のきみの見解は、なにやら宏岡亜矢[ひろおかあや]さんを彷彿とさせますな。――いずれにせよ、そうなんだ。仮に知識をいろいろ仕入れたり、人の意見を聞いたとしても、それで自分の評価が変わるとも思えない。だから、まずは素で呑んでみた」
「うん。どうでした?」
「最初に思ったのは『水みたい』だということ。すうっと入ってゆく。で、濃厚さが残る」
「おう」
「作中で及川[おいかわ]が言う科白[せりふ]に、『日本酒って甘くてもっちゃりしてるイメージ』みたいなのがあったでしょ? 俺も同様の印象を持っていたんだけど、まるで違うんだわ。辛口の酒というのも初めてじゃないけど、辛いの甘いの以前に、淡麗で洗練されてる。これが《無ろ過の生酒》か、と思ったね」
「へえ。――どれどれ」
「いや、未成年の飲酒は……」
「なにアニメ版みたいなこと言ってんですか。だいいち私は成人してますから。見てくれはこんなですが」
「ラベルには『要冷蔵』とあるけど、石川先生お勧めの呑み方は常温なんだそうだ。『三十分から一時間ほど前に冷蔵庫から取り出してからが、よりいっそう美味しくお召し上がりいただけます』なんだってさ。もう今は、ちょうどいい頃なんじゃないかな。――どう? 芳醇でしょ」
「ああ……。ふわぁっと広がりますね。華やかなんだけど慎ましい……? 言葉にするのは難しい。うん、でも、私も日本酒はどちらかといえば苦手ですけど、これはたぶん、何杯呑んでも飽きがこないな」
「ああ。それは言えてるね」
「さてと、では……」
「では、って。オイ、何が《ジャー》だっ」
「いいじゃんいいじゃん。一杯じゃ判んないって」
「ムトーか、きみは。大事に呑んでくれよ、貴重なんだから」
「えー。でもでも、来年は私が当ててえ、先生にご馳走できるかも、ですよ?」
「……ですよ、はつけちゃダメじゃん」
「はい?」

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